【完】八月は、きみのかくしごと


 テレビの音量を下げるお父さんの背中をじっと見ていた。

 グレーのTシャツは汗で色が変わっている。

 わたしの住む影森町は田舎で、スーパーマーケットまで車で三十分以上はかかる。いや、もっとかも。

 商店街じゃ買えないものもある。

 だから、買い物へ行くのは大変なのだと母さんが言っていたのを覚えてる。

 商店街のお店で注文を受けた物をまとめて住民へ配達をするお父さんは、わたしのように夏休みはないのだ。


 「夏希はどこか出掛けるのか?」

 「行かないよ。超暑いし、日焼けしたくないもん」

 「そうか。出掛けるときは気を付けるんだぞ?」

 お父さんが地元番組が流れるテレビとわたしを交互に見た。


 先週、隣町で起きた通り魔事件が報道されている。   
 犯人は今だ逃走中だとテロップが流れていた。


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