【完】八月は、きみのかくしごと
羊ヶ丘公園へと場所を移したわたしと奏多はベンチに座る。
なんでだろう。
毎日顔を合わせていたのに、久しぶりに会ったように感じる。
「ナツはつぶあんな」
まだ、ほくほくと湯気があがってる。
真夏の公園で温かいおまんじゅうを食べるという季節感のないことをしているのは、わたし達くらいかも。
「ありがと。てか、御門屋ならわたしもさっき通ったんだよ?」
「あー、中に上がれって言われて、トキさんの愚痴聞かされてたからな」
だから会わなかったのか、と一人納得。
奏多がサイダーのプルタブを空けるとプシュッと小気味いい音がした。
「通り魔事件の犯人は地獄に落ちてしまえ! って。トキさん、テレビに向かって怒ってたよ」
皺だらけのくちゃくちゃな顔で怒りに満ちるトキさんの顔が目に浮かぶ。
トキさんはよく誰かしら捕まえては昔の話をしたり愚痴なんかを漏らす。強烈だ。とても九十歳とは思えない。
どうやら今日の怒りの矛先は通り魔事件の犯人だったようだ。
地獄におちてしまえ、か。
わたしは笑えなかった。
もしかすると、わたしはホントに地獄におちるかもしれないから。