【完】八月は、きみのかくしごと
店内は広々としている。奥にソファ席とテーブル席もある。ちなみに設置されているテレビはトモちゃんがいつでも見れるようにとのことらしい。
わたしと奏多はいつもカウンター席を選ぶ。
「隣同士で並んで話せるじゃん」と、奏多が中学の頃に寄り道をしたときに言ったからだ。それからずっとカウンター。
「こんにちは。トモちゃん、久しぶり」
カウンターに座りながらそう言うとトモちゃんは首を傾げた。細かいパーマが波のように揺れる。
「夏希、三日前に来たじゃないの。退屈だのなんだの言ってたでしょう」
「……あ。そうだったね」
いけないいけない。
言われてみれば、七月の終わりに一度来ていたような気がする。
奏多が長野に行っていて暇だなって思ったんだ。
「カレーごちそうさま。すごく美味しかった。昨日の夕飯に食べたよ」
わたしは話題を変えるようにお礼を伝えた。
「当然よ。私のカレーは世界一だもの」
たくましい二の腕を掲げて得意気に笑う。
トモちゃんは肩についたパーマのかかる髪をひとつにまとめる。
最近は目尻の皺が深くなったことがショックだと言っていたけど、とても六十近いとは思えない美貌の持ち主だ。
トモちゃんの気さくな性格とこの美貌、古くからの常連さんは多いだろう。