【完】八月は、きみのかくしごと
「なんだよ。俺のときはいつも、忘れた頃にお礼言ってくるクセに」
奏多がわざと意地悪な口調で言った。
「奏多には昨日のうちに言ったじゃん」
「昨日は、だろ?」
今度はわたしが目を細くして笑う奏多をじっと見た。
そんなやり取りにトモちゃんが笑っていた。
「トモちゃん、クリームソーダふたつね」
「え?」
わたしが奏多を見ると、
「俺の奢りな。最初で最後だぞ」
笑窪を見せて笑った。
わたしが初めて飲んだ炭酸はここのクリームソーダ。
喉の奥で弾ける炭酸が苦手だったけど、奏多の好きなものを一緒に共有したからか、それが嬉しくて、今ではこれだけは飲めるようになった。
むしろ、好きだった。
「ごゆっくりね。お二人さん」
アイスの上にさくらんぼの乗ったクリームソーダを並べると、トモちゃんはいつも通り奥の席に座りテレビの電源をつけた。
通り魔のニュースがしつこく報道されている。犯人の男の特徴は前歯がないだとか。マヌケな犯人の顔を想像すると少し笑えた。