【完】八月は、きみのかくしごと


 「私が学生の頃はそんな便利なもんなかったわ」

 「トモちゃんの時代は手紙とか?」

 すかさず奏多が問いかけた。

 「そうよ。奏多は持ってないのね。なら、手紙がおすすめよ。機械と違って、気持ちがこもってるしね」

 古くさいな、と心のなかで毒づくわたしとは違って、奏多は同調するように微笑んだ。
 
 「まぁ、あんまり使いすぎんじゃないわよ? その電話代だって、あんたの父さんが汗水垂らして配達したお金で払ってるんだから」
 
 眉を高くしてほくそえむトモちゃんにわたしは肩をすくめた。
 

 「ねぇ奏多、もう明日でいんじゃないの? それで、陸の家に電話してみればいいじゃん」
 
 「いや、後回しには出来ないよ」

 わたしはストローを持つ手がピタリと止まった。

 陸に言われたことが、奏多からも言われたような気がしたから。

 「今から陸がいそうなところに行ってみないか?」

 「わたしも?」

 奏多のことは見ずに聞いた。

 「付き合ってくれるんじゃないのか?」

 まじまじとストローをくわえたわたしを見つめる気配がした。

 動揺を隠すように甘い香りのソーダを勢いよく吸った。
 
 「ナツが一緒だと、俺も陸に言えなかったことが言えそうな気がするから」

 穏やかで、静かな声。

 炭酸が、シュワシュワと胸のなかで弾けた。


< 39 / 185 >

この作品をシェア

pagetop