【完】八月は、きみのかくしごと
「私が学生の頃はそんな便利なもんなかったわ」
「トモちゃんの時代は手紙とか?」
すかさず奏多が問いかけた。
「そうよ。奏多は持ってないのね。なら、手紙がおすすめよ。機械と違って、気持ちがこもってるしね」
古くさいな、と心のなかで毒づくわたしとは違って、奏多は同調するように微笑んだ。
「まぁ、あんまり使いすぎんじゃないわよ? その電話代だって、あんたの父さんが汗水垂らして配達したお金で払ってるんだから」
眉を高くしてほくそえむトモちゃんにわたしは肩をすくめた。
「ねぇ奏多、もう明日でいんじゃないの? それで、陸の家に電話してみればいいじゃん」
「いや、後回しには出来ないよ」
わたしはストローを持つ手がピタリと止まった。
陸に言われたことが、奏多からも言われたような気がしたから。
「今から陸がいそうなところに行ってみないか?」
「わたしも?」
奏多のことは見ずに聞いた。
「付き合ってくれるんじゃないのか?」
まじまじとストローをくわえたわたしを見つめる気配がした。
動揺を隠すように甘い香りのソーダを勢いよく吸った。
「ナツが一緒だと、俺も陸に言えなかったことが言えそうな気がするから」
穏やかで、静かな声。
炭酸が、シュワシュワと胸のなかで弾けた。