【完】八月は、きみのかくしごと
なぜわたしはこんなところにいるのだろう。
さっきまでわたしは外にいたはずだ。公園に。
だけど今は一変して夏特有の茹だるような暑さなど全く感じない場所にいる。
「……あれ、奏多(かなた)は? わたしと一緒にいたのに」
ぐるんと周りを見たけれどわたしとこの男以外誰もいない。
「矢沢奏多のことか? お前と同じ高校一年生。幼馴染みだったな」
書類のようなものをパラパラと捲りながら言う男にわたしは頷いた。
「夏休みで……羊ヶ丘公園にいたんだよ。そうだ、奏多に言わなきゃいけないことがあるって言われて、それからわたし……」
ズキッと頭に痛みが走り咄嗟に手を当てた。
手繰り寄せた記憶がブチリと切れていく。
「痛むのか。まぁ、それも当然だろうな」
「どういう意味?」
「お前は矢沢奏多と話している最中に、最後まで話を聞かず、公園を飛び出したんだ。覚えているか?」
男に言われて思い出すのは追いかけてくる奏多と、逃げ出したわたし。
「あ……」
「思い出しただろう?」
男は腕を組むとふんと鼻を鳴らした。
「水野夏希。お前は八月の二十五日、不注意で飛び出し、トラックに轢かれた。頭を強く打って意識不明の重体だ」
淡々と言い放つ男に反して、しばらくわたしは凍りのように固まっていた。
眼孔が開ききっていたかもしれない。
それはたった今思い出した記憶。
そう、わたしは事故に遭ったのだ。