【完】八月は、きみのかくしごと




 黄色い屋根の大きな家が見えてきた。

 一年前に塗り替えたばかりの凛子の家は庭も広く、手入れも行き届いている。小さなひまわりが太陽に顔を上げるように咲いていた。

 どこから見ても目立つことこの上ない。

 まるでここだけ影森ではないんじゃないかと思うほど立派な家だった。

 
 『なっちゃん。遊びにきてくれて嬉しいなぁ』
 
 初めて招待されたとき凛子は心底嬉しそうにしていた。


 中学になってもわたしのことをなっちゃんと呼んでいることにはちょっと驚いたけど。

 母さんもわたしのことをそう呼んでいたときがあった頃を思い出して、戸惑ったんだ。


 
 「ナツ! こっちこっち」
 
 町内の案内板の陰に身を潜めるようにした奏多が手を挙げた。

 「凛子になにかあったの?」

 「長野から帰ってきた日に、電話で相談したいことがあるって言われてたんだよ」
 
 「相談? 奏多に?」

 そんなことは子供のときも一度もなかったのに。

 あの凛子が、わざわざ奏多に電話をするなんて、なにがあったっていうのだろう。 

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