【完】八月は、きみのかくしごと
「昨日は、凛子、ピアノのレッスンの日で都合が合わなくてさ。だから今来てみたんだけど」
と、凛子の家のガレージの前を見る奏多。
わたしはその視線を辿る。
大きな旅行バッグが並んでいた。スーツケースは凛子のお父さんのものだろう。
「そっか。ハワイ旅行に出発するのって、今日だったよね」
以前のわたしは、凛子の家が旅行に行くからと配達を一時止めた話をお父さんから聞いて知ったのだけど。
「いつ聞いたんだよ? 今日が出発なんて俺は聞いてなかったけど」
「え、それは、前にだよ……」
「へぇ。ずっと喧嘩してたのにか?」
さらりと言う奏多にわたしは声を詰まらせた。
奏多はお見通しだとばかりにわたしに視線を送る。
その瞳は、なんだか鬼丸のようにも感じた。