【完】八月は、きみのかくしごと


 「きっと相談だってナツとのことだろ。なら、ハワイに行く前に聞かなきゃ」

 足元からゆっくりと奏多を見上げるとわたしを見て頷いた。

 今年の奏多はなんだか大人びている。

 自分がちっぽけに思えるくらい。

 「喧嘩したんじゃない。凛子が、悪いんじゃない……」

 「うん」

 奏多もそれをわかっているだろう。

 そして、わたしが母さんの話をされるのが嫌いだということも。



 中学三年生になってすぐの春。

 母さんは肺癌で亡くなった。

 タバコを吸っていたわけじゃない。

 それでも肺癌にはなるのね、と不謹慎にも葬儀で親戚が話していた。

 母さんのことは大好きだった。たぶん。

 少なくも子供の頃は、大好きだった。

 抱き締めてくれる母さんの腕。家に帰ればおかえりと言ってくれる声。

 「なっちゃん」と呼んでくれる優しい声も鮮明に覚えている。

 
 でも、中学に上がってからの母さんはすっかり変わってしまった。

 まるで、家に知らないおばさんが来たような気持ちだった。


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