【完】八月は、きみのかくしごと
凛子と仲直りしたい気持ちはあるけれど素直に謝れないまま時間が過ぎていった。
別に急がなくていい。いつか仲直り出来るだろうと思っていたから。
「なっちゃん?」
そのとき、凛子の家の玄関のドアが開いた。
「……あ」
わたしは咄嗟に声をもらした。
「わ。奏多くんも……どうしたの?」
真ん丸な目をさらに大きくした凛子がこちらへと向かってくる。
長くて綺麗な黒い髪と白いワンピースが、ふわふわと気持ち良さそうに風に踊る。
「昨日はピアノのレッスンだったろ。凛子の相談まだ聞いてないからさ。今から少しだけ時間ある?」
なにも言えずにいるわたしの横で、すかさず奏多が口を開いた。
「う、うん。今日から旅行なんだけどね、お母さんがまだ、支度終わってなくて……持っていくお洋服がありすぎだって、お父さんに言われてて……」
凛子のお母さんらしいや。
のんびり屋でおっとりしている。凛子もそうだもん。
遊びに行ったときもアップルパイを焼いてくれて、わたしはそういうお洒落な洋菓子を初めて食べた。
わたしの母さんとは天と地ほどの差がある。
母さんはきっと、アップルパイなんて作れない。
「よかった。少しだけでも話したかったから。場所を変えようか」