【完】八月は、きみのかくしごと


 ◇
 
 奏多の提案でわたし達は七草神社へと場所を移した。

 それは凛子の家の裏側にあり、歩いてすぐのところだ。


 普通の公園の半分もない小さな神社だけれどその真ん中にずっしりと構えた本殿があり、わたし達か生まれる前から影森の町を守っている。

 静かで日陰も多い。

 母さんが亡くなる年、初詣に来たときにおみくじを引いた。

 奏多の引いた大吉が羨ましくてわたしの凶と交換してほしいと言ったらあっさり大吉を譲ってくれた。

 言い出したのはわたしだけど、それが不思議で理由を聞いたら、

 『俺に起きるはずのいいことが、全部ナツにいくからあげるよ』

 今でもその大吉はわたしの机のなかに眠ってる。


 子供の頃もこの神社でよくみんなで待ち合わせをしたっけ。

 凛子は本殿の方向に身体を向けてペコリとお辞儀をした。

 「凛子偉いじゃん」

 木陰に座る奏多が汗を拭うと微笑む。

 「あ……これは、その、なっちゃんがやってたのを見て……私もちゃんとしなきゃって思ったの」

 控えめな声だった。

 数える程度しかしていないお辞儀のことを覚えてたんだ、凛子。

 「そういや、ナツもしてたね」

 「まぁね……七草神社に行くの知ってた母さんがうるさかったからね。神様にちゃんとお辞儀しなさいよって」

 どこに神様がいるのか、と思ったけれど、天罰がくだるのを恐れて言いつけを守った。

 「偉い偉い。ナツ」

 と、奏多の手が不意に伸びてくる。

 わたしの頭に触れる……と思って目を伏せたけれど、その手は宙をさまよったあと、視界から消えた。


< 60 / 185 >

この作品をシェア

pagetop