【完】八月は、きみのかくしごと
「よかったじゃん」
木漏れ日の下で奏多が笑って立ち上がる。
笑顔が眩しい。
ちょっと恥ずかしいけれど、本音は嬉しかった。
「そろそろ戻らないと……夏休みが終わるくらいに帰ってくるから、また電話するね。なっちゃんも、奏多くんもありがとう」
「待ってるよ。旅行楽しんできてね」
わたしがそう言うと凛子は弾けたように笑った。
凛子は自分というものを持っている。
ごめんね、とありがとう。
大切な言葉を伝えることが出来る。
意地を張ることもせず、素直に。
それってすごい。
子供から大人へとなる度に本当に大切なものを失っていく気がする。
そんななか凛子は変わらずにいてくれる。
わたしは、それに気づけてよかった。
これが本当に最後の夏休みなら、なおさらよかったんじゃないかな。
「奏多の二つ目のやりたいこと、完了だね」
わたしは奏多を見て満足気に笑った。
「え? まぁな……」
苦笑い。そんな顔だった。
どうしてかな。奏多はときどき困ったように笑っているように見える。
「聞けるときにちゃんと話したいだろ。顔見てさ」
「うん。話せてよかった」
奏多のおかげだ。
わたしひとりじゃきっと凛子とも話せないままだったから。
「ありがとう……」
奏多の背中を見つめながら呟いた。
優しい気持ちになれたのは久しぶりだ。
わたしと奏多は、七草神社の本殿にお辞儀をしてから二人で帰った。