【完】八月は、きみのかくしごと
「ホントにやろうと決めた人間はね、今からでもやるんだよ。やらないでいたってね、後悔しか残らないんだ」
黙り込むわたしの頭の上から追い討ちをかけるように声が落ちてくる。
だけどそれは物悲しい声色だった。
「トモちゃんは、後悔してるの?」
ゆっくりと顔を上げて聞いた。
皺の寄った強ばった目元が弱々しくなる。
こんなトモちゃんを見たのは初めてだった。
「あんなに後悔することはもうないだろうね……私があんたと同じ十六の頃よ」
陰りのある声でそう言った。
「時正(ときまさ)って幼馴染みがいてね。山道でヘビを追っ払ってくれたり、ガキ大将から私の割烹着を取り返してくれたり、近所で喧嘩をしてる友達を止めたりして。強い男だった……私は、そうね、時正のことが好きだったのよ」
まるで心をなぞるように優しく語り始めた。