【完】八月は、きみのかくしごと


 「いじめられていたことに、これっぽっちも気づいてあげられなかったの。だって、そんな風に見えなかったからね」

 と、自嘲の笑みが悔しそうに歪んだ。

 わたしだったら気づけるだろうか。

 奏多や凛子、あるいは陸が苦しんでいたとしたら、わたしはすぐに気づけるのだろうか。

 
 「顔を見ればなんでもわかると思っていたのだけど。柔道部の先輩から妬まれていたんですって。時正は、ひとつのことを始めたら最後まで全力でやる男だったからね。それくらい強くなったことも、私は知らずにいたのよ」

 「どうして……」

 やっとの思いで発した言葉はそれだけだった。

 「そうね。どうしてかね。私も死ぬことないじゃないかって、時正に言ってやりたかった。時正はいつだって強かったもの。強く……見えたの。だけど、それはきっと時正がそうでありたかったからなんじゃないかって気づいたわ」

 
 きっと誰もが強くありたいと願う。

 
 わたしだって、そうであれば、傷つくこともないのかもしれないと考えたけれど、

 「弱い部分を見せないことが、強いことじゃないのに。気づけなかったのは私がいけないのよ」


 トモちゃんの悔いた声が落とされる。



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