【完】八月は、きみのかくしごと
山間の町並み、幼馴染みの奏多、友達の凛子と陸。
皺の数が増えたお父さん。
公園から飛び出していったわたしに大型トラックが迫る光景に声を上げそうになる。
衝撃を受けるわたしの身体はアスファルトの上でピクリとも動かない。
目を見張った。
そのどれもがほんの数秒の映像のようだったけど、死んでしまった母さんの顔が映ったときは、ゴホッと息を吐き出してしまった。
最後に見たのはベッドで眠る自分自身。
機械に繋がる細いチューブが何本もわたしの身体についている。
その傍らにはお父さんが目頭を押さえて座っている。
ふくよかだったお父さんが一回りほど小さくなって見えた。
「……なんなのよ、これ」
勢いよく池から顔を上げて酸素を取り込む。
心臓がバクバクと強く打ち付ける。
「お前の人生を見せてやったんだ。よくわかったろ? 水野夏希、お前は生と死をさまよっているんだよ」
静かに言った男の声に、わたしは荒々しく短い呼吸を繰り返しながら何度も頷いた。
わたしはお父さんと奏多のいる世界に生きていない。
半分死んでいる。
身体はあっちで心はこちらにある。
びしょ濡れになった髪から水がポタポタと落ちてくる。
涙も一緒に零れ落ちて口に入ると少ししょっぱい。