【完】八月は、きみのかくしごと
わたしは思った。
強くなったからといって傷つかないわけじゃない。
傷つかない人間なんていないから。
「時正が死んでから影森を出ようと思っていた時期があったんだけど、出来なかったのよね、私。この町には時正と過ごした思い出があるから。だからひとりでも寂しくないのよ……カレーを作って時正のことを思い出すと、優しい気持ちになれるからね」
トモちゃんの瞳は穏やかだった。
それを聞いたわたしは思う。
トモちゃんは今でも時正さんに恋をしているんだ。
たとえどんなに苦しい思い出も、いつかは優しさへと変わることもあるのだと、トモちゃんが教えてくれた気がした。