【完】八月は、きみのかくしごと
「だからね、あんたには後悔してほしくないんだよ」
厨房からこちらへと回りわたしの隣の椅子を引いた。
後悔したこと、わたしにはあるだろうか。
あのときこうすれば、あのときああすればよかったと、今でも嘆くことはあるだろうか。
きっと、そうなる前に気づかなきゃいけない。
トモちゃんは優しい鬼丸みたいだ。
夏休みをやり直しているなかで、わたしひとりじゃ気づけなかったことに導いてくれる。
「わたしもカレー食べたいな。とびきり美味しいトモちゃんのカレー」
「え? こないだも食べたじゃないの」
「そうだけど。カレーはわたしが作るの……それをお父さんと食べる。コツ、教えてくれない?」
「あんたが作るの? 本当に?」
トモちゃんは目を見張って確かめる。
それくらい驚いたのだろう。
「もちろん。一度くらいは、ご飯作ろうと思ってたんだから……」
それは本心だった。
うるさい母さんはもうないない。過去のわたしならそう思って考えもしなかったことだろう。
でも、今は。
「急にどうしたのよ?」
「トモちゃんの言う通りだと思うから。もしかしたら、わたしに明日はないかもしれない。喫茶店を出たら……事故に、遭うかもしれないし……」