【完】八月は、きみのかくしごと
「やっぱここは静かだな。秘密基地みたいだし」
石段に座る奏多が持ってきたサイダーのプルタブを開けると小気味いい音がした。
わたしも「そうだね」と眼下に広がる影森の町を一望した。
湿った草の匂いが辺りを包んでいる。
近くでたくさんの蝉が鳴いている。
後ろの木々にも止まっているのかな。
「てかさ、なんで今日は裏山なの?」
「ここならナツとゆっくり話せるだろ」
「別にいつでも話せるじゃん。家だって近いんだし」
スープの冷めない距離に奏多の家はあるわけだし。
電話だって出来る。会おうと思えばいつだって、わたしと奏多は会える。
「ふたりで話したいんだよ。顔見てさ。ここなら静かだし、それに懐かしいだろ?」
奏多は影森の町に広がる空を見上げて呟いた。
癖のある髪が風になびく。