【完】八月は、きみのかくしごと


 「秋に絶対試合に出てみせるから見にきてくれって言われたよ」

 「じゃあ、行かなきゃね」

 それまでにわたしも陸とのわだかまりを解消出来るだろうか。

 気にしているのはわたしだけかもしれないけど。

 あのときは奏多がいたから陸と話せたんだ。

 「……だな。行かなきゃ、怒るだろうな」


 奏多の声が沈んでいく。

 わたしは足元からゆっくりと奏多へと目線を移した。

 「おじさんは配達休み? お盆だし」

 じっと見つめていたことに気づいたのか、目が合うと、わたしより先に口を開いた。

 「あ、うん。明日からね。今日まではまだ配達が残ってるんだって。トキさんのとこの最中とか水ようかんが、暑中見舞いの注文で入ったって」

 「トキさんとこはお盆でも店閉めないもんな」

 「ひとりだからじゃない? 家族とか来てるの見たことないよね」

 トキさんは旦那さんが十年も前に先立ってからひとりぼっちだ。

 息子さんがいるらしいと聞いたことがあるけど、その息子とやらを見たことがない。

 それに、影森ではトキさんのことを好きなひとはあまりいないだろうと思う。

 
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