【完】八月は、きみのかくしごと
「諦めた顔をするな。ここでは生きる必要があると判断した者は、現世へと還ることが出来るんだ」
「え? 死なないってこと?」
飛び付くように男を見る。
「……助かるかもしれないってこと?」
さっきの机と椅子に向かう男の背中を追いかけながら、わたしは聞いた。
「そうだ。だが、生きる必要がないと判断した場合は、その後の行き先を裁判にて決定する」
わたしはそのための裁判所なのかとようやく納得した。
「行き先って、どこに行くの?」
「そんなもの決まっているだろ。天界か地獄のどちらかだ」
地獄……。絶対に嫌だ。
「も、もし、わたしが生きる必要がないって判断されたら、わたしはどっちに行くの?」
男はじっとわたしを見つめた。
思わず息を呑む。
「地獄行きに決まっているだろ? 裁判するまでもないな」
呆れたように薄く笑った。
「そんな! なんでよ。わたし、罪を犯したりしてないよ!」
「今時の若者はこれだから嫌いだ。己の罪がわからないとはな」
男は偉そうに足を組むと顎を突き出した。