【完】八月は、きみのかくしごと


 「なぁ。トキさんとこ行かないか?」

 「えっ……なんで? おまんじゅう食べたいの?」

 御門屋のおまんじゅうはわたしも大好きだけどトキさんの顔を見るのが嫌でひとりでは行かない。

 「まぁ、それもあるけど」

 と、奏多がポケットから取り出した計画書を広げた。

 文字を辿っていくと『トキさんの愚痴を目一杯聞く』と書かれているのを発見した。


 「……なにこれ。わたし、やだよ」

 「最後まで付き合ってくれるんだろ?」

 「確かにそう言ったけどさ……」

 貴重な夏休みにトキさんの愚痴やお説教を受けてる時間なんてない。

 そんなの冗談じゃないよ。

 「トキさんのことが嫌いだから?」

 わたしは首だけで返事をした。

 「なんで?」

 「なんでって……いつも怒ってるもん。特に、若者には冷たいって噂だし」

 町のみんなはトキさんのところのおまんじゅうは好きだけど、トキさんのことは好きじゃないと思う。

 怖いし、苦手だ。


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