【完】八月は、きみのかくしごと


 実際わたしもぐちぐちと文句を言われた経験がある。

 学校帰りに凛子と寄り道をしておまんじゅうを買ったときだ。


 『お前たちはいいな。悩みごとのひとつもなさそうで。ヘラヘラと毎日笑っておるのぉ』

 痛いくらいの眼差しを向けてきたトキさんはそう言って鼻を鳴らした。

 凛子は圧倒されおどおどしていたけど、わたしの気分は最悪だった。
 
 怒りにも似た気持ちが沸いてきた。

 
 「意地悪ばぁさんじゃん……だから、やだよ。またなにか言われるのもごめんだしね」

 「俺も言われたことあるよ。生きてて楽しいのかってな」

 うわ、なにそれ。

 わたしは言葉が出てこなかった。

 トキさんの顔を思い浮かべるとムカムカしてきた。

 「そんなこと言われたのに、愚痴なんか聞きに言ってどうすんの?」

 わたしなら二度と会いたくないと思うのに。


 「まぁな。でも、トキさんはきっと寂しいんだよ」

 「だからって毒吐いていいわけじゃないでしょ」

 わたしがふてぶてしく言い放つと奏多はゆらゆらと頭を振った。



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