【完】八月は、きみのかくしごと
そんな奏多の後ろを続くわたしはその背中を見つめる。
こんなに近くにいるというのに、なぜか奏多が遠くに感じた。
木漏れ日が奏多の首筋を伝う汗を照らした。
「なぁ、ナツ」
奏多が山を降りきったところで不意に足を止める。
ハッとしてわたしも立ち止まると、パキンっと枝を踏んだ音がした。
振り向く奏多を見上げると視線と視線が交差する。
見計らったかのようにじわじわ鳴いていた蝉の声が止んだ。
「ナツは……俺にかくしごとしてないか?」
心臓が大きく跳ねる。
奏多は、息を呑むわたしを見据えた。
そして悲しげに瞬きをする。
「な、なに……いきなり。かくしごとなんて、してないよ」
そう答えるのが精一杯だった。
きっとぎこちなかっただろう。
まさかわたしが過去をやり直しているなんて、そんな非現実的なことを奏多が想像するわけないのに。
だけど、不安が生まれたのは誤魔化せない。