【完】八月は、きみのかくしごと
「奏多は、なんでそんなこと聞いてくるの?」
奏多は真っ直ぐにわたしを見つめている。迷いの色を含んだ瞳だった。
わたしは事故の前に奏多に呼び出された日のことを思い出した。
『ナツに言わなきゃいけないことがあるんだ』
羊ヶ丘公園で奏多はそう言った。
今にも泣きそうな表情をして。
胸が苦しくて、嫌な予感がして、わたしは耐えきれずに逃げた。
それ以上聞きたくないと思ったから逃げた。
今、わたしの目の前にいる奏多が、そのときの奏多と重なった。
「……奏多は?」
過去の残像を振り切るようにわたしから口を開いたけれど、 胸を渦巻く嫌な感覚はみるみるうちに広がっていく。