【完】八月は、きみのかくしごと
「かくしごとがあったとしても、ナツには話すよ」
曖昧な答え方にさっきよりも不安の色が濃くなる。
違和感を覚えた。
それは、やっぱり奏多が今までと違うからだ。
わたしの知っている奏多はこんな風に寂しそうに笑ったりしない。こんな質問をぶつけてきたりしない。
かくしごとなんてわたしと奏多の間にはないの。
確認しなくてもわかりきっていたはずだった。
「夏休みもあと半分だな」
分厚い沈黙を今度は奏多が破った。
掠れた声が宙を舞う。
「半分……」
それはわたしが過去の世界にいられる期限だ。
鬼丸の言った最後の夏休みになるかもしれない。
もう、半分が終わった。
奏多が言っていたように思ったよりも時間はずっと速く流れているんだね。
少しも待ってくれない。
わたしが十六年と少し生きてきたなかで、そんな大切なことに今さら気づいた。
どうして、大切なことにわたしはいつも気づけないのだろう。