チューリップ
職員室の近くになるといっそう生徒たちの数が増えていた。


せわしく波打つ心臓にいらだちを感じながら人をかき分けて階段へと進む。



でも、そこに梨華の姿はなかった。




あったのはふき取れきれていない真っ赤な血の跡。




また心臓が大きく波打つ。




あれは梨華の血…なのか……?



「こっから梨華が落ちたって本当か?」



近くにいた見知らぬ生徒に声をかけると、一瞬驚いた顔をして躊躇いながらうなずいた。


「たった今運ばれたところです。美山先生…いっぱい血を流してました……。」


女は目に涙をためながらそう言った。






梨華が何で…?



どうして梨華ばかり傷つくんだ?




俺の頭は怒りと混乱で満ちていった。



「どこの病院に行った?」


「それは先生しか…。


付き添いで及川先生も行ってますけど…。」



女は小声でそう答えると小さく頭を下げてその場を離れていった。



気づけばさっきまで人があふれていた階段も、もうだいぶ静けさを取り戻していた。




その静寂は俺に恐怖を与える。




梨華がいなくなるかもしれない恐怖と絶望感…。





梨華の血を前にして

気づいた。





梨華は俺のすべてなんだ。
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