チューリップ
教室に大きな音が響いた。
女が俺をたたいた音。
女は目にたくさん涙をためながら、俺をひっぱたいた。
怒り、悲しみ、哀れみ、そんな感情が混ざった顔でゆっくりと口を開いた。
「あなたたちはクズなんかじゃない。
私は可哀想なんかじゃない!!!!」
女の目から涙がこぼれた。
1滴のしずくは頬を伝って教室の床へと落ちた。
俺が言ったことは紛れのない真実。
のはずなのに、女が、梨華が言ったことを否定できない。
それは違う
きれいごとだと、言ってやりたいのに言い返すことができない。
それは梨華の涙のせいなのか、それともちがうのか俺にもわからなかった。
俺の言った言葉に涙を流す梨華を見ていられず、俺は静まりかえっている教室を飛び出した。
廊下を、階段を、道路を全力で走った。
ただただ前に続く道を走った。
いつもサボる時に来る見慣れた道を、がむしゃらに走っていると雨が降ってきた。
さっきまでは誰もが見上げるような晴天だったのに、もう今は皆が下を向いている。真っ黒な雲が空を覆っていた。
大きく重たい雨粒が俺を何度も激しく叩く。
まるで梨華の涙のように俺にしみこんでいった。
気づけば俺の目からも大粒のしずくが流れていた。