チューリップ
カランと氷がコップの中で動く音がして、私はリュウを見た。


この家には十分なほどいろんなものがそろっている。

きっと、リュウも生活に困ることはないだろう。


でも

この家には


一番大切なものがない。



「リュウはずっとここで暮らしてるの?」

「あぁ。行くとこもないしな。」

「大きいお家だね。」

「無駄にな。1人じゃこんないらねぇだろ。」


ははっと笑って麦茶をテーブルにおいた。


「高1の夏から?」

「え?」

「1人で、この家で暮らしてるの?」


私がそう質問すると、リュウは少し顔を曇らせた。


辛いかもしれない。

触れられたくない話かもしれない。


でも、もう目を背けないでほしい。今のリュウには前を見る力があるはずだから。





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