チューリップ
「職員室や3年生の教室があるこの建物は本館、あっちに見えるのが左から2年生の南館、1年生の西館、そして反対にあるのが資料室や多目的室がある東館です。
東館の近くには図書館や体育館、トレーニング施設などもあるんです。」
本館を出て運動場に向かう途中、5月から必死に覚えた学校の構造を岩城先生に説明する。
先生は私の説明をうなずきながら必死に覚えているようだ。
「前々から広いとは聞いていましたが、すごい立派な学校ですね。
覚えるのには時間がかかりそうだ。」
理事長の言っていた通り、岩城先生はすごい方らしいのに傲らなくて、私の話にもうんうんと耳を傾けてくれた。
「この花壇もきれいですね。」
少し先を歩いていた先生が花壇の前で足を止めた。
「ここの花壇のお花、私が育ててるんです。
本当は当番制だったんですけど、一度担当したらなんだから楽しくなってしまって。
私お花好きなんですよね。」
「そうなんですか。
ここはなにも植えないんですか?」
微笑みながら私の話を聞いていた先生が花壇の左の方を指さす。
そこは…
「チューリップが植えてあったんです。」
「チューリップですか。」
「大好きなんです。」
夏休み前まで色とりどりのチューリップが咲いていたんだ。