チューリップ
「気づいた頃にはもう手遅れでした。彼女は最後まで入院せず、リュウに寂しい思いをさせまいと、痛みに耐えながらも最期まで普通の生活を送ったんです。
ある日、大量の睡眠薬を接種していた状態で彼女は最期を迎えていました。
体がきつかったから自ら死を選んだのか、最後の瞬間まであの子に心臓病を知られたくなかったのか、由香里の意志はもうわかりませんが、彼女は最高の母親であり最高の妻でした。」
そう言う岩城先生の声はとても穏やかで、由香里さんがすばらしい方だったことを、最期まで彼女なりに闘い抜いたことを物語っていた。
由香里さんは自殺したんじゃない。
闘って闘って、彼女が望んだ形で死を迎えたんだ。
「リュウ想いの素敵な方だったんですね。」
私の言葉に岩城先生は少しだけ微笑んだ。
でもその笑みは一瞬にして葬られる。
「でも由香里がいなくなって、気づけば私と隆太との間には簡単には埋まらない溝が出来ていました。」