溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
今となればすべてフェイクだったけれど、重たく感じていた彼の想いや、相応しくないと思って合わせてばかりだった時間を改めて振り返った。
……楽しかった。
きゅうくつだとか、心から満足してないって言いながらも、本当は好きな人といられたら、それで十分だったんだ。
2度とあんな経験はできないだろう。貴重な恋ができたと思えば、失恋もきっと無駄にはならないはず。
涙が出そうになって、指先で目頭を押さえた。
社長にワガママを言ったのは私だし、泣くのが許されているのは、まだ先の時間。
それに、泣きたくはない。
ただ、コントロールが効かないの。
「勝手を言わせてもらうと、あんな男のために泣かれたくないんだよ。だけど、ここなら誰にも見られないから」
「……」
頭にそっと手のひらが置かれ、加えられた重みに従って、ひと粒こぼれそうになる。
「俺も見ないし、聞かない」
社長はおもむろにポケットから携帯を出して操作すると、イヤホンを耳に着けた。
導かれた社長の腕の中。初めて聞いた彼の鼓動と、掠める清潔感のある香り。
社長が甘やかすように私をふわりと包むせいで、涙が頬を伝うのを止められなかった。