溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
20時。
社内から残業していた人影がなくなっていくこの時間、誰にも見られないように足音を潜めるようにこっそりと社長室を訪れた。
「お疲れさま」
デスクで仕事をしていた彼は、私を一瞥して言った。
こうして真剣な面持ちで書類を手に働いている姿もまた麗しく、いくら見ていても飽きることがない。
いつものカジュアルな装いもいいけれど、スーツベストとYシャツ、ネクタイを身に着けた彼は一段と凛々しくて、無条件でドキドキしてしまう。
「ちょっと待ってて。これが終わったら、食事に行こう」
「大丈夫ですよ。お仕事を優先してください」
忙しくキーボードを打つ彼の視線は、一行に私に向かない。
時折考える仕草をして、難しそうな表情を見せる間、私のことなんてきっと忘れているんだろうな。
食事をするために時間を作ってくれたのは嬉しいけど、無理はしなくてもいい。彼は社長なのだから、多忙な日々に理解は示せているつもりだ。