溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
社長室の照明が落とされ、大きな1枚窓いっぱいに夜景が広がった。
来週から10月になる街並みは、ところどころ秋を深めている。青々としていた並木道も、今朝にはすっかり紅葉する準備を始めているようだった。
「頼むから、今日みたいなのは勘弁してくれる?」
夜景を見下ろしながら、彼に後ろから抱きしめられつつ、2人きりの時間を過ごす。
「何のことですか?」
ようやく会えて、嬉しくてたまらない。
だけど、私の素っ気なさはそう簡単に変わるものでもなく、彼の困った様子を内心楽しむようになった。
「……はぁー。ほんっと、千夏って」
そこで言葉を切った彼が、抱きしめてくれていた腕を解き、真正面から見つめてくる。
切れ長の瞳は、私と夜景を映して煌めく。
仕事中は見せない困ったような表情が、私はたまらなく好きだ。
「悪い趣味を持ってるね。俺を振り回すなんて」
社長はネクタイを片手で緩める間、私を逃がすまいと、もう一方の手を硝子に突いた。