溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
「写真差し替えにならなくて残念だったね」
風を切る音がしそうなほど、勢いよく顔を上げた。
ついさっき見せられた微笑みが嘘のように消え、抑揚の見えない表情が私を見下ろしている。
「俺が差し替えるなって言っておいたんです。あの時、横野さんにプロポーズしておいてよかった。千夏ちゃんにも言ったんだけど、どうやら効果がないみたいですね」
「……名前で呼ぶの、やめていただけないでしょうか」
私らしくない。こんなに感情をぶつけたのは久しぶりで、声が裏返りそうになった。
「そんなに嫌なら最初から言ってもらえたらいいんです。白埜さん」
じゃあ、と言って、エレベーターで社長室のある上階へと向かう彼を見送る。
最低だと思うのに、責められないのは自分に呆れる隙を認めたからだ。
桃園社長に気を遣わせるようなこともして、社長の機嫌も損ねてしまうなんて。
誰も喜ばない、自分のためだけの一連に嫌気が差す。
お手洗いで鏡に映した自分の顔が、性悪な女に見えて仕方がなかった。