溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
ついでに書斎の椎茸に霧吹きで水をやり、大きくなったものは採って袋にまとめ入れておいた。前回分がなくなっていたから、社長が自宅で食べたのだろうと思うと、変なところで親近感を持った。
「桃園社長と約束されていましたか?」
「大丈夫です。今日来るって聞いていなかったので、ちょっとびっくりしましたけど。お気をつけてお出かけになられてください」
撮影用の服から着替える社長は、私がいることなんてお構いなしで上半身を晒す。冗談だとしても、結婚しようとか好きだとか言った相手に、よくも堂々と……。
それに、見るつもりがなくても視線が向いてしまうと、まるで自分が悪いことをしているような気がしてしまうのだ。
「社長、ご報告があります」
最後に時計を着けて支度を済ませた社長は、食事に行くためにシャツとジャケットを着た姿がとても様になっている。
「この度、正式に桃園社長とおつき合いすることになりました」
「そうですか、よかったですね。おめでとうございます」
温度が計れない表情に、冷静な瞳。
前に勘違いされた時と同じ……。
「大変申し上げにくいのですが、社長とおつき合いすることはありません」
私もいつもと変わらぬ愛想の無い顔で、葛城亜緒の告白を断った。