溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
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隣席の男性社員の麦茶がデスクに倒れ、置かれている原稿が濡れた。1リットルの容量はなかなかのもの。だけど、会議から戻ったばかりの私は慌てることなく、自席に戻った。
「すみません!」
取引先との電話を終えるなり、彼が慌ててティッシュを数枚投げ込んできた。
身振り手振りを交えながら話していた彼の肘が、見事に麦茶にヒットした瞬間は少し焦ったけれど、置いたままの原稿は再印刷すればいい。
「大丈夫です。壊れる物はないので」
幸い、PCは会議に持ち込んでいたから無事だ。
濡れてしまった原稿は、裏側を向けて伏せられている。麦茶の水滴を軽く切って、コーヒーサーバーの横にある台拭きで片付けを手伝った。
向かいの席の女子社員は気に留めたものの何もせず、傍らに飾ったアイドルの卓上カレンダーに視線を移している。目の保養と話していたけれど、その感覚は分かる気もする。
美容関連の会社で広報と聞けば、華やかそうな印象を持たれやすいが、現実はそう簡単に美男美女だらけというわけにはいかないのだ。
ちなみに、私のデスクには麦茶の水害を逃れた鳥さんがいるけれど、同僚のデスクからは姿を消しつつある。