無色パレットに何色を
プロローグ
春夏秋冬季節は巡る…

母の一周忌に僕は1人、無き母の墓で祈りを捧げていた。

母が亡くなったのは去年の3月の事、僕は長かった大学院を卒業し筆記も面接もギリギリながらも無事合格通知を受け取り新米心理士としていざ病院勤務を控えていた時だった。

普段はメールも電話も僕には送ってこない父から何件もの電話の着信がきていた。

大学の打ち上げで全く着信に気がつかなかった僕は急いで何件もの父からの着信履歴からかけ直すと10コールは待ったところで「ブツンッ」と機械音と共にに声は衰退し、無気力な父と繋がった。

僕は会場に戻るために急いでかけてきた要件を聞こうとしたが…

「母さんが…亡くなった」

父からの唐突、いや突然の一言を理解できないまま僕は瞬きが止まり息も吸わずまるで僕だけ世界が止まったかのように携帯を片手に1人固まった。

死因はガン、急に亡くなる病気ではない病に混乱する僕は今にも崩れそうな父に何故僕には病気を伝えなかったのか問いただした。

しかし父は

「お前を受験に集中させるためだった」

の一点張りで他は何も聞けない。

隠し事丸見えの父に僕は親族の前でも関係なしに隠し事をして何も言わない怒りと父のせいではないとわかっているはずの悲しみをただ1人しかいない肉親にぶつけ泣きながら僕は葬式場から出て行った。

それ以来父を含め親族とは連絡を取っていない。

今では単純に僕が馬鹿だったとは思うが今更また仲を戻そうと思う気は無い。

祈りを捧げ終わりまだ赤い火が見えるいい香りの線香の先を折って火を消し、忘れ物が無いかを確認して母の墓を後にした。

墓地を後にする途中、和風な墓の中で一つポツンと離れたところに雨風にさらされところどころ欠けて色落ちた寂しげな薄白い十字架の墓が目に入った。

僕はなんとなく気になって近づいてみるとまばらに雑草が生えた十字架の前に桜の花びらが一つ落ちていた。

立春を迎えてもまだ春とは言えない寒さのうちの町に春の象徴である桜の花びらが落ちていたことが珍しく周りの木々を見たが花どころかつぼみすら無い。

不思議ではあったけど僕の脳内では物珍しさが勝り携帯でパシャりと写真を撮ってしまった。
墓場で写真を撮るなんて僕はとんでもない不謹慎な奴だ…やった後に後悔する僕の悪い癖。

そしてなんとなく立ち寄ったら不思議な気持ちになり “墓撮り” の罪悪感もセットで僕の気持ちの容量Lサイズとなった十字架に複雑な気持ちでお辞儀をして僕は母の眠る墓地を後にした。












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