呆れるほどに不器用な恋を、貴方と。
「あの、すみません、以前ここで私、倒れそうになっちゃって、貴方に助けてもらったんです。覚えてますでしょうか?」
「あぁ、はい。その後大丈夫でした?」
あれ以来言葉を交わしたことはなかったけれど、度々交わす会釈だけででも覚えてくれていたようだ。
「はい。その節は本当にありがとうございました」
カウンターに座りながら小さく頭を下げる。
「あの、それで……」と鞄から昨日用意をしたチョコレートを取り出して彼の前に置いた。
「最近まで忙しくてお礼も録に出来ずにすみませんでした。ひとまず山場は越えたので良かったら貰ってください」
ずずいと差し出したそれを彼は目を丸くして固まるように見ていた。
「あの……チョコレートなんです。お嫌いでしたか?」
目を丸くしたまま一言も話さない彼に焦りを感じ、押し付けがましかったかと更に焦る。
「ご、ごめんなさい!知らない人から突然迷惑でしたよね!?あ、あのでも何かお礼を、と思ってっ」
チョコレート、嫌いな人だっているはずじゃない!しかも知らない人から食べ物って。
手作りじゃなくてもアウトでしょ!
「あ、じゃじゃあ、ここのコーヒーチケットとか。あーなんで気付かなかったんだろう、そっちのがいいですよね!今から買ってきますので、もう少しお時間よろしいですか!?」
そう言いながら既に体はカバンをもって立ち上がる。
椅子から降りたその瞬間、「ブッッ、、」と吹き出す声が聞こえた。
何事かと一瞬時が止まり、確実に彼が吹き出したんだと分かるほど肩を震わせて堪えたように笑う男。
「あのさ、ちょっと落ち着いて?」
そう顔を合わせたとき、きっと私はこの男に2度目の恋に落ちたんだ。