呆れるほどに不器用な恋を、貴方と。
始まりもコーヒーショップから
お互い名前を名乗ったのは次に会ったとき。
「あの、私 三田村 央(みたむら ひろ)と言います。先日は名前も名乗らずすみません」
「いや、こっちこそ。桜木 雄大(さくらぎ ゆうだい)宜しく」
相も変わらずペコペコと頭を下げる私にふわりと笑う桜木さんに見とれて、コーヒーを落としてしまいそうになったのは内緒。
そのまま1ヶ月ほど『顔見知り』の期間を経て、約束をしたわけでもなくそれはただこのコーヒーショップで会えたとき、挨拶を交わすだけの事から始まった。
『おはよう』
『おはようございます』
時間に余裕があるときなんかは軽い雑談なんかも。
『今日は変な天気だな』
『雨、午後から降るそうですよ?』
当たり障りのない天気の話が殆どだった。
2ヶ月がたつころには『いつもの席』が定着し始めて、あの初めてあったカウンターで座って話すようになった。
「私、ここの近くの幼稚園で働いているんです。桜木さんも近くですか?」
「いや、会社は違うんだけどね」
互いの仕事も紹介しあって、桜木さんがデザイナーさんだと知った。
商業デザインという分野で私の仕事とは畑違いの全くかかわり合いがない世界で、何も分からなかった私だけど、あのとき渡したチョコレートのパッケージを桜木さんが手掛けていたと教えて貰ったときは勝手に運命だとほくそ笑んだものだ。
3ヶ月目に突入する頃には仕事の愚痴や、仕事の内容、話の流れから彼が私の3つ年上な事が分かった。
それでも、このコーヒーショップから出ることはなかった。