呆れるほどに不器用な恋を、貴方と。
促されていた手はさすがに取れなくて。
その手を無視して雄大に向かい合う。
彼の空気が苛つくのが分かる。
そんな態度をされる意味が分からない。
ふんっ、と顔を背けこちらの態度も硬化させてしまう。
「どうすんのよ……」
「…………はぁ。付いてきて」
そのため息が癇に障る。
「……ため息つくくらいなら来なきゃいいじゃん」
聞こえないと思って思わず口から出た台詞はバッチリ雄大に聞こえていたようで、目を丸くしていた。
「……央ってそんな風な話し方もするんだな」
雄大のそんな台詞が聞こえてカッと体に熱が入る。
恥ずかしいのか悔しいのか分からない感情が押し寄せて視界がぼやけそうになる。
「そ、そんな話し方が嫌ならほっておいてよ。もういい!帰る!」
再びカウンターの中へ入り奥の更衣室へ荷物とコートを取りに行く。
裏口なんてないから又お店まで戻らないといけないけれど、無視して帰ってやる!
「ちょっ。おい!ヒロ!」
慌てる声は聞こえるけれど、さっき話を聞こうと決意した気持ちが吹っ飛んでしまった。
困惑するマスターに頭を下げ、出口に向かう。
雄大の横を通らないと帰れないけれど、走れば大丈夫だろう、なんて思って強行突破しようとすると「央、」と静かな声で動きを止められた。