王子、月が綺麗ですね
「少し辛抱いたせばよいだけのこと、歩けぬわけではない。心配いたすな」

「王子が脱臼するほど我慢なさるからです」

紅潮し頬を膨らませた真剣な顔が可愛い。

つい、顔がほころんでしまうのを堪える。

「脱臼か……あれは木刀で打たれたより数倍も痛かった」

「暢気に振り返っておられる場合ですか。紅蓮殿が整体術を心得ておられたからよかったものの、そうでなければ」

「小言はよい。怒ると皺ができるぞ」

俺は凛音に向かって、舌を出し笑ってみせた。

「王子!」

凛音が俺の手首をギュッと掴み、先ほど以上に頬を膨らませた。

「怒ると可愛い顔が台無しだ。申したであろう。其方は笑顔が1番だと」

「ずるいですよ、王子は」

凛音は一転して、しおらしくなった。

「誰が聞いておるかわからぬ。王宮に戻るまでは、如何なる時も王子でなく葵と呼べ」
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