王子、月が綺麗ですね
「そんな細い身体でよく宝刀の三節棍を振り回せるな」

ついさっきまで、露天風呂の隅っこで小さくなっていたヤツとは思えない。

「日々鍛えておるからな。細いのではなく引き締まっておるのだ。ムダな肉はついておらぬ」

「負けず嫌いだな。朔に光の柱が昇った後から、闘技奴隷の間で噂が流れていた。王都の龍神の滝の奥にある祠に、何か異変があったんじゃないかと」

「──祠にあるのは天叢雲の鏡のみだが」

「その天叢雲から龍神が抜け出したのではと」

「あの鏡は御神体ではない。東西南北におわす明王の陰陽の気が普く国中に行き渡るよう祀っておる」

「祥、それにあの祠に入れるのは代々の女王だけだ。そうだよな、葵くん」

「ああ、万に1つ女王以外の侵入があったとしても、忽ちにして業火に焼き尽くされる……異変があるとすれば、明王の方であろうな」
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