王子、月が綺麗ですね
自ら話しながら、寒気がした。

──其方の身、陰陽の気が乱れておる

龍神の言葉が甦る。

「東西南北の明王の祠、直ちに調査せねばならぬな。念のため四神の社も調査したほうがよかろう。八咫烏を遣わせよ」

「御意」

「八咫烏!? 王族は人外の物も操ると聞いたが、八咫烏とはな」

「伝書鳩より数倍もあてになる。夜眼も聞くしな」

「昼間のあれも?」

「ヒーリングとやらか? あれは覚えがない。何かの間違いであろう。忘れるがよい」

「むちゃくちゃだな」

「ヒーリングなど、下手に広まれば厄介だ。自分の足も満足に動かぬのに」

「表裏があるんだな。安心した」

可笑しなヤツだと思う。

奉納試合で闘った時よりもずっと、彼を身近に感じた。

「また手合わせをしたいものだな」

「その足で?」

「全く動かぬわけではない。調子が良い時に」
< 117 / 174 >

この作品をシェア

pagetop