王子、月が綺麗ですね
いきなり商売の話を切り出した王子と、それを意図も簡単に交わす男性のやり取りが暫く続いた。

瑞樹さまと紅蓮殿が何も言わずに成り行きを見守っているのがわかった。

祥は王子と男性を怪訝そうに観察し、押し黙っていた。

男性がわたしたちを詮索していた素振りも、両者の間の不穏な空気もない。

男性は王子と朱雀の話をしたことも王宮の光の柱のことも忘れている気がした。

他愛のない会話からは男性の険しかった表情さえも消えていた。

村への分岐点まで歩き、わたしたちは朱雀の社へ寄るため男性と別れた。

祥は男性の姿が見えなくなると「何かやったんだろう?」と、王子の手首に手を掛けた。

「あの男の額辺りで指を巧みに動かして何かしたんだろ」

「声を荒げずとも聞こえる」
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