王子、月が綺麗ですね
王子は祥の手を払いのけ、祥を見下ろし「朔の記憶と四神の会話を消しただけだ」と抑揚なく付け加えた。

「記憶を消した──」

祥の目が游ぎ、声が上擦っていた。

「早九字を唱えただけだ。体に害は与えておらぬ」

「何故、記憶を……」

「──あの者は恐らく風早氏の差し向けた間者であろう。闘神祭の後から身辺をうろついておった」

「葵くんはそんなに前から気づいて」

「紅蓮、其方は?」

「茶屋で休んでいる時に」

「風早氏か──温厚に見えて警戒心が強そうだな。一筆届けておかねばな」

王子はわたしたち全員に聞こえるほど大きな溜め息をついた。

「いずれにしても、先ほどの男はこの先現れぬ」

王子は首の前で手を右から左へ移動させた。

「お払い箱?」

祥は目を丸くし、王子と紅蓮殿を交互に見た。
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