王子、月が綺麗ですね
「あの……もしかして葵くん、具合が悪いんですか?」

仲居を引き止めて、訊ねた。

「急に熱が出られて。今、お手持ちの薬を飲まれたようです。熱が高いので冷やした方がよかろうと氷嚢を──お医者さまも呼んだところで、もう直ぐお見えになります」

仲居が早口に答えた。

「氷嚢、まだ?」

中から苛立った様子の祥の声が聞こえてきた。

「ご心配なさらないようにとのことですので。ーーはーい、只今」

仲居は慌てて、ピシャリと戸を閉めた。

何故そうまでして心配させまいとするのかと悲しくなり、王子の様子を部屋に割り込み窺おうとし、戸に手をかけた。

「およし!」

瑞樹さまがいきなり、わたしの手を掴んだ。

「あんたが入っていったところでどうにもなりゃしないよ。葵の熱はただの熱ではないんだよ」
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