王子、月が綺麗ですね
喧騒の音に胸がざわつく。

何故、このような事になったのか?

何故……無念を口に出さず、凛音の手を握りしめた。

ひたひたと迫る後ろからの足音に目を凝らす。

「王子、葵王子」

聞き覚えのある声に、勢いよく振り返る。

「紅蓮、無事であったか」

紅蓮は副騎士長で、俺の剣術指南でもある。

手を伸ばし、俺に細いチェーンを差し出す。

「葵王子、女王陛下よりお預かりいたしました。龍神の加護をと申されておられました」

くぐもった抑揚のない声で告げる。

チェーンをしっかりと受け取りペンダントトップを観て、一瞬息が止まった。

「これは母上の……」

城の中へ戻ろうと身を翻した。

「王子、なりませぬ。王子は生きて、城を王位を奪還するのです」

紅蓮の言いたいことは解る。

解るからこそ尚更、俺は素直に納得したくないと思った。
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