王子、月が綺麗ですね
声を落とし、低く静かに問う。

「数年前、王陛下に幽門の徒の存在を聞かされた時、朧気に聞いた記憶はあったが……昨日、凛音の口から聞くまでは半信半疑だった」

紅蓮殿の顔から穏やかさが一瞬で失せ、射抜くような鋭い瞳でわたしを睨んだ。

「凛音に話さぬなら自害すると脅して話させた」

紅蓮殿はそれを聞くと、いきなり声を上げ笑い出した。

「王子は痛いところをつかれましたね。凛音がどれほど王子を思っているか、ご存知でしょうに。なあ、凛音」

カーッと顔が火照り、頭のてっぺんまで熱くなり、慌てて両手で顔を覆った。

「何で紅くなっておるのだ。家臣が主を思うのは当然であろう」

紅蓮殿はわたしをチラと見て「そうですよね」と笑いをこらえながら言った。

「王子、ちょっとしたお身体の不具合も我慢せず、隠さずにお伝えください」
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