王子、月が綺麗ですね
「──観覧席に戻らねばならぬ。痛み止めでも栄養剤でも、速やかに投与せよ。歩けぬとあらば、杖を用意せよ」

我ながら、これほどまでに癇癪持ちだったのかと思うほど、苛立っていた。

自ら招いた結果ではないかと自分自身に言い聞かせるが、苛立ちは収まらない。

「王子、両陛下には何と申し開きなさるのです?」

凛音が俺の顔色を窺い、覗き込んだ。

「如何様にも理由はあろう。急ぎ戻ろうとして階段を踏み外し、骨折したとでもお伝えすれば良いではないか」

俺が言い終わらないうちに、紅蓮がいきなり笑い出した。

「いや、王子は嘘がお好きだなと思いまして」

申し訳なさげに、手を合わせる。

「秘薬を使ったなど、言える訳がなかろう。母上はお嘆きになり、泣き乱れられる」

俺を見つめる紅蓮から、目を反らす。

「あの気丈な女王陛下がですかな? あり得ませぬな」
< 53 / 174 >

この作品をシェア

pagetop