誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
見知らぬ男性に結婚を迫られた直後に意識を失い、これまた見知らぬ場所で眠らされていた――。
普通の女性なら恐怖すら覚えるこのシチュエーションにあいながひるまないのは、彼女が多少の戦闘能力を持っているからだ(もちろん、戦闘能力というのは、一般的人類が修得できる範囲内の能力であり、魔法や魔術の類ではない)。
もう昔の話だが、彼女は、弟の龍河(りゅうが)と共に、小学生時代の数年間、空手の稽古に通っていたのである。子供の頃の記憶力や吸収力は素晴らしいもので、高校三年生になった現在でも、あいなは空手の技を繰り出すことに長けていた。
そんな彼女、学校ではなにかと女子に頼られ、一部の下級生からは尊敬されていたが、男子からは『女のクセに空手とか、こえーよ』と引かれていた……。唯一の特技が恋のチャンスを遠ざけているなど、あいなは夢にも思わなかった……。
そんなあいなが、シャルの意のままにここへ連れてこられた可能性を否定したくなるのは当然だった。
(必死に抵抗したはずなのに、まるで手ごたえがなかった。あいつ、何者なの!?日本語ペラペラしゃべってたけど見た目は外国人ぽかったし、自国の秘技を使ってきた、とか??でも、そのわりに痛みはない。
それに、私はいつの間にか意識を失ってた。貧血とか、今までなったことないのに。ううん、なったことがないから、倒れた自覚も持てなかったとか?)
今、自分がここにいる理由を必死に考えてみたが、全く分からなかった。